2018年10月27日土曜日

70年続いた国際線航空の上限運賃が消える!

国際航空運送協会(IATA:カナダ・モントリオール)は、第2次世界大戦後すぐから国際線航空運賃の基準として活用されてきた『IATA運賃』(IATA普通運賃ともいう)の制度を廃止します。IATA運賃での航空券発券は10月31日(水)限りで終了し、その有効期間が切れる来年10月31日をもって、完全に姿を消します。

IATA運賃が制定されたのは、1947年(昭和22年)に行われた第1回IATA運送会議でのことです。以来、71年間に渡って世界中の航空会社における国際線運賃の上限額を定める役割を果たしてきました。有効期間は最初に搭乗した日から1年間、片道運賃は往復の70%、経由地で他の航空会社に乗り換えたり、宿泊を伴う滞在(ストップオーバー)をすることは自由というIATA運賃の規則が加盟航空会社における運賃規則の大原則とされ、これを基に各航空会社が制限を加えるなどして、割引運賃を定めるようになっていきました。

この当時は、日本円の為替レートが1$=360円という極端な円安水準に固定されていたこともあり、円建て換算されたIATA運賃は物価的にも一般の日本人が簡単に手の届く数字ではなく、国際線航空をまさに「高嶺の花」に押し上げていました。その代わりに、高いお金を払ってでも国際線に搭乗する乗客は富裕層やビジネス客ばかりで、そういう客にはある程度のわがままを認める、という意味合いになっていたとお考えいただければいいかと思います。

後に、エコノミークラス正規割引運賃の基準である『IATA PEX』や、パッケージツアー料金の基準となる『IATA IT』が制定されたり、ファーストクラスとエコノミークラスの間にビジネスクラスが設けられたりするなど幾多の変化を経ますが、各航空会社が独自の割引運賃を定めるにあたっては、IATA運賃からの割引率が目安とされ、逆にIATA運賃の水準を上回る不当に高い運賃の設定も禁じられるなど、航空の大衆化というIATAの目標を実現するにあたって、大きな貢献をしてきたのも事実です。

日本では、『JTB時刻表』(JTBパブリッシング=旧日本交通公社出版事業局:東京都新宿区)が国際線航空の時刻掲載を再開した1987年(昭和62年)7月号以降、運賃の目安として各路線ごとのIATA運賃を記載し、その存在が一般にも知られるようになりました。

しかし、1990年代後半になると3大航空連合の誕生や世界一周運賃の登場、LCCの台頭、そしてWEBでの予約発券が主流になったことなどによってIATA運賃はその意義を徐々に失っていきます。2007年(平成19年)には、普通運賃のシステムが従来のIATA運賃に相当する『IATA FLEX』と、各航空会社が独自に定めた『キャリア普通運賃』に分かれます。日本航空(JL=JAL)によりますと、IATA FLEX運賃は、路線・クラスごとに各航空会社が提示する最も高い運賃の平均を出し、それに1.1をかけた数値を以て次年度の運賃基準とするシステムを採用しているといいます(フレックスフェア方式)。

東京で編集されている業界向け専門サイト『トラベルビジョン』は、ANA(NH)が日本と欧州間の普通運賃航空券を発券している業務渡航中心の代理店に対し、2008年夏スケジュールからキャリア普通運賃への移行を求めていると報じていました。2010年(平成22年)には、国際航空運賃に対する独占禁止法(1947=昭和22年法律54号)の適用除外制度が見直され(2010年国土交通省航空事業課通達132号)、アメリカ向けについてもフレックスフェア方式が適用されます。そして、2017年(平成29年)6月28日に開催された運賃調整会議で、IATA運賃の制度そのものが廃止されることが正式に決定。今年10月31日をもって、IATA運賃での発券は終了することになっていました。

国土交通省航空局航空事業課(JCAB:東京都千代田区)では、国際航空ネットワークが充実した現代においては、例え特定の1社が不当に高い運賃を設定したとしても、乗客は違う航空会社や経路を選択でき利便は確保できると判断。IATA運賃に代わる新たな国際線航空運賃算定の目安を設けないとする方針を決定しました。

なお、日本航空が各旅行会社に通達したところによりますと、10月31日までに発券されたIATA FLEX運賃の航空券であっても、11月1日よりも後に第一区間(最初に搭乗する区間)の日付を変更した場合、IATA FLEX運賃は利用できなくなるとのことです。また、IATA FLEX運賃の廃止に伴い、ノーマル船員割引(SC25)や添乗員割引など一般客が使えない特殊な運賃についても一部整理の対象になると伝えられています。