国内外への修学旅行や遠足など、「教育旅行」を中心に静岡県内では知られた存在だった旅行会社の国際観光(静岡市葵区、観光庁登録第1種旅行業第445号)が、7月9日、静岡地方裁判所民事部(静岡市葵区)に自己破産を申し立てました。地元紙の静岡新聞によると、負債総額は4億3,700万円に上るとのこと。静岡県庁や県教育委員会が海外修学旅行をタイへシフトさせようとしていた矢先の今回の倒産劇で、関係者の間に衝撃が広がっています。
国際観光は、日本教職員組合(日教組:東京都千代田区)傘下の静岡県教職員組合(静教組:静岡市葵区)が中心となって、1950年(昭和25年)に「静岡観光」の名前で創業。1952年(昭和27年)に法人改組された会社で、68年の歴史を有していました。1953年(昭和28年)に静岡県知事登録国内旅行業(現在の第2種旅行業)第1号を獲得。静岡県内の公立小中学校が行う教育旅行の分野で「修学旅行に僻地なし」「小規模校、養護学校のこどもたちにも楽しい遠足を」というモットーを掲げるなど、教育者視点の事業活動で安定した業績を上げていました。
しかし、少子化に伴う団体の参加人数減少に加え、エイチ・アイ・エス(東京都新宿区、東証1部上場)やJTB(東京都品川区)など東京に本拠を置く全国規模の大手が静岡県教育委員会(静岡市葵区)の行う一般競争入札に参加するなどして国際観光の事業領域を奪っていく例が見られるようになります。守る立場となった国際観光は「静岡県の教育界の発展に貢献する」とした経営理念が足かせになって神奈川や愛知といった他県に進出することができず、頼みの静岡県内でも、貸切バス会社が自社内ないしは系列にある静鉄観光サービス(静岡市葵区)やアンビア(静岡県焼津市)、さらには静岡新聞社・静岡放送傘下のSBSツアーズ(静岡市駿河区)といった地場他社との競争が激しくなり収入が減少していきました。
富士山静岡空港(静岡県島田市)開港後は、静岡空港発着で台湾や韓国などへ修学旅行に行く学校が増えたものの、国際観光に組成を依頼する学校はなかなか増えず、業績が頭打ちになりコストも上昇していきます。この件について、東京で編集されている『JCNET』は
「西子好之社長以下役員のほぼ全員が静教組OBで、県教委からの天下り幹部もいたという事情で人件費が嵩んでいたのではないか」
との指摘をしています。
今年6月には富士山静岡空港会社の株主交代に伴う需要喚起策として台湾よりもさらに遠いタイへの修学旅行を誘導するという県庁の政策(前記事「静岡~バンコク直行便への布石?修学旅行を誘導へ」参照)が明らかになったものの、その先行視察団を受注する以前に会社の資金繰りが限界まで追い込まれていました。そして、銀行営業日の関係で7月2日(月)が期限だった手形やでんさい(電子記録債権)の決済が不調になったため、同日朝に国際観光は全事業を停止、事後処理を弁護士に一任していました。
東京で発行されている教職員向けの専門紙『教育新聞』によると、7月30日に出発する予定だった夏休みの静岡県小中学生国際交流体験団が、旅行を主催する国際観光の倒産で中止に追い込まれたとのこと。こどもたちを参加させる予定だった家庭には、連絡会が肩代わりして返金する方向です。また2学期以降の修学旅行や遠足の代金を既に振り込んだ学校・PTAはなかったものの、連絡会を通じて引き続き精査するとしています。