ベトナム国会は22日、南東部ニントゥアン省で計画されていた2ヶ所の原子力発電所建設計画を白紙撤回する決議を採択しました。2ヶ所はどちらも中南部のビーチリゾートとして知られるニャチャン市や南シナ海の軍事的要衝のカムラン湾(どちらもカインホア省)に近く、万が一事故となればインドシナ半島有数の重要立地が全滅しかねない事態も予想されましたが、計画撤回によりそのようなリスクはなくなります。
ベトナムはグエン・タン・ズン前首相時代の2009年から、ASEAN域内初となる原発導入計画を推進してきました。ベトナム国内だけでなく、ベトナム南部の火力発電所から電気を輸出しているカンボジアの電力需要もうなぎ上りになっており、2030年には原発を最大で8基建設しなければ間に合わなくなるというマスタープラン(長期計画)をまとめ上げ、国会で承認。2010年には1ヶ所目のニントゥアン第1原発(ニントゥアン省トゥアンナム県)をロシアの技術で建設する契約を交わし、続けて第2原発(ニントゥアン省ニンハイ県)を日本の支援で建設するため、内閣総理大臣・菅直人(民進党、衆院比例東京ブロック=当時は民主党、衆院東京18区)とズン首相による政府間合意の下、国際原子力開発(東京都千代田区)と日本原子力発電(原電、東京都千代田区)が現地での調査に乗り出しました。
しかし、直後に東日本大震災、そしてそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所(福島県大熊町)での未曽有の大事故によって計画は暗礁に乗り上げます。福一事故の直後にベトナム政府は建設予定地が外洋(南シナ海)に直接面するという福一と似た環境にあるとして、津波を防ぐため海岸から15mの高さの堤防を建設すると発表します。だが、不安は消し去れません。着工は2度に渡って延期される一方で、日本の反・脱原発勢力も政府に計画中止を求める働きかけを行ったものの、12年12月の政権交代で与党に復帰した自民党は一貫して原発推進の立場を取っているため、突っぱねます。内閣総理大臣・安倍晋三(衆院山口4区)は自ら掲げる経済成長戦略に原発の再稼働と海外への技術移転を盛り込み、その最初の目玉、初の原発輸出実績としてニントゥアン第2原発を何としても完成させようと考えていました。
16年1月のベトナム共産党大会と4月の国会による政府トップ人事で、ズン首相が2期10年の任期を終えて退任すると、ズン氏が推し進めた数々のインフラプロジェクトに見直しが入ります。その中で、ニントゥアン第1、第2両原発は
・構想当時と比べてマクロ経済の発展状況が大きく変わったこと
・福一事故の影響により建設コストが構想段階の2倍に膨れ上がったこと
・他に優先するべき大型インフラ整備案件があること
を理由に中止、再生可能も含めた他のエネルギーによる発電所建設を推進していくとするマスタープランの見直しが提案されました。そして、今回の第14期2回国会に関連決議案が政府提出されたのです。ハノイで編集されている日系ニュースサイト『VIETJO』は、決議が定数500人の国会議員のうち92%にあたる460人の賛成を得て採択されたと報じました。