JR東日本(東京都渋谷区、東証1部上場)は、東京近郊の駅で発売している「都区内フリーきっぷ」「都区内りんかいフリーきっぷ」を3月31日利用開始分で発売終了とすることにしました。ただし、東京23区内の駅で発売している「都区内パス」は、引き続き発売されます。都区内パスが終了すると誤解してはいけません。
都区内フリーきっぷは、日本国有鉄道時代の1971年(昭和46年)に発売が開始されました。当時は「国電フリーきっぷ」といい、東京23区内の駅で発売されるものと、近郊地区で発売されるものが同じ商品名でした。その後、都営交通1日乗車券(現在の「都営まるごときっぷ」)と組み合わせた「国電・都営フリーきっぷ」の誕生とともに「国電・都区内フリーきっぷ」に改称、分割民営化で国電の文字が取れて「都区内フリーきっぷ」となりました。現在の「都区内パス」に改称したのは、2001年のことです。
都区内版が「都区内パス」となった後も「都区内フリーきっぷ」の名前で発売が継続された近郊地区版は、横浜や千葉、八王子など東京駅から50km程度までの範囲内が対象となっており、発売駅から一番近い東京都区内の駅までの往復乗車券がセットされていました。例えば横浜駅発着であれば都区内パスの料金(730円)に、最寄となる蒲田駅(東京都大田区)までの往復運賃を加算した形(730円+210円+210円=1,150円)で発売されていました。
一方、東京駅からの距離が100kmまでの中距離圏では、東京山手線内に赤羽駅(東京都北区)や錦糸町駅(東京都墨田区)などをプラスした「東京自由乗車券」がありましたが、2006年に都区内フリーきっぷと統合して自由乗降区間を拡大、りんかい線(東京臨海高速鉄道)も加えた「都区内りんかいフリーきっぷ」にリニューアルしました。
ところが、近郊地区からわざわざ都区内フリーきっぷを買って東京まで出ていく人は年々少なくなっていきました。
近郊地区発着の都区内フリーきっぷでは、往復共にJR線を利用するしかなくなり、並行する私鉄が走っていると私鉄で都内まで出た後に都区内版を買った方が有利になるケースが多かったためです。特に、現在「東京メガループ」と呼ばれている南武線、横浜線、武蔵野線沿線からの都区内フリーきっぷは、東海道線や東北線に出て都区内に入る最初の駅までの運賃で計算されるため、全区間JR線では遠回り。途中の駅で私鉄に乗り換えて山手線内まで出て都区内版を買い直した方が、運賃も利便も圧倒的に有利となっていました。
1991年(平成3年)には旧国鉄の東京近郊区間全域までエリアを広げた「ホリデー・パス」(現在の「休日おでかけパス」)が登場。ホリデーパスの使える日に、近郊版都区内フリーきっぷを買う意味は都区内までの距離が近い一部の駅を除いて、事実上なくなりました。
そこにとどめを刺したのが、Suicaの普及とPASMO互換の開始。JR線と私鉄、都営地下鉄、東京メトロ、さらには民間バスまでも1枚のICカードで乗り継げるようになり、東京までJRしか選択肢のない中央線や東北線沿線でも需要の減少を招いていました。JR東日本は、時代の変化によって近郊地区からの都区内フリーきっぷはその使命を終えつつあると判断、常に一定の需要がある都区内パスに集約させる決定をしたという訳です。