2009年9月21日月曜日

外こもりヤクザ逮捕、真実は?

司法省特別捜査局(DSI:ラクシー区、日本の東京地方検察庁特捜部に相当)の捜査員は19日、ソイインタマラ26(ディンデン区)のアパートの一室に踏み込み、部屋にいた日本人男性2人を逮捕しました。直接の逮捕容疑は覚せい剤所持の現行犯でしたが、2人のうち1人は日本で指名手配されていた、いわばいわく付きであることが判明しました。

この記事をめぐり、メディア各社の記述が全然バラバラになり、どれが真実なのかわからなくなっています。Traveler's Supportasiaでは、事件を整理するとともに分析してみます。


日系紙「バンコク週報」と「newsclip」はいずれも容疑者の名前を公表していませんが、英語紙「バンコクポスト」は実名を公表しており、「ウト・ジュンヤ(40歳)」「ヨシモト・キミヒロ(36歳)」の2人とされています。しかし、時事通信バンコク支局電はミヤザキ・カズヤ(38歳)」という名前を引き合いに出しています。さらに、中国語紙最大手「世界日報」では、KAMIGOと名乗る35歳の男という記述も出てきます。これはどういうことなのでしょう?

ヨシモト容疑者は、日本のある指定暴力団配下の組員として活動していましたが、関西テレビ(大阪市北区、フジテレビ・FNS系列)の報道によりますと、2006年に大阪府和泉市で先輩にあたる別の組員に発砲、片眼失明の重傷を負わせたとして殺人未遂と銃刀法違反(拳銃発射:銃刀法3条の13)罪で大阪府警察から指名手配されていました。この時の名前が、「ミヤザキカズヤ」ではなかったかと考えられます。

そうなると、ヨシモト容疑者は捜査員に対して偽名を名乗ったか、タイに入国する際に他人名義のパスポートを使ったのではないかという推測が成り立ちます。事実なら、旅券法違反(旅券法23条の2:5年以下の懲役または300万円以下の罰金、併科も可能)も成立することになります。

タイに入国したヨシモト容疑者は、指名手配がインターポール(ICPO)を通じて国際手配に切り替わっていたことを知る由もなく、麻薬の密売や恐喝などで生計を立てていきます。今年6月には恐喝未遂容疑でスティサン警察署(ディンデン区)に逮捕されますが、この時恐喝したとされる相手について、バンコクポストが「タイ人の女性」としたのに対し、newsclipと世界日報は日本人の実業家と書きました。この件でもメディアの報道に食い違いが生じ、日本メディアにとって扱いにくい記事になってしまっているのです。

その後、スティサン警察署はヨシモト容疑者が偽名を使っていることに気づかず、保釈の手続きを取って釈放します。保釈の手続き完了後に日本の警察庁へ問い合わせたところ、指名手配中のミヤザキ容疑者とヨシモト容疑者が同一人物であることが発覚。警察庁と大阪府警察が正式に協力要請してきたため保釈許可を取り消し、DSIにも参加を要請してヨシモト容疑者の行方を追っていました。

一方、ウト容疑者はヨシモト容疑者のアパートに一緒にいたところを逮捕されます。所持していた麻薬の量について、バンコクポストは覚せい剤9.1gと大麻4.3gと書きました。これに対しバンコク週報は重量を記述せず、newsclipは覚せい剤5g、世界日報は覚せい剤4袋と記述しています。これではどうしようもありません。newsclipはタイ語大衆紙「コムチャルック」の記事を和訳したとしていますが、翻訳する時点で事実を歪曲したと取られても何も文句は言えません

在バンコク日本大使館では、

「タイ側の司法手続きを待って引き渡しできないか検討する」

としていますが、9gの覚せい剤は日本でも麻薬密売目的所持に問える量で、タイなら死刑相当。両容疑者ともバンクワン終身刑務所(ノンタブリ市)での過酷な服役生活が待つことになりそうです。当のヨシモト容疑者は

「もう疲れた。全部認めます」

と容疑を認めた上で、

「(タイの法令だと)最低30年間ムショにぶち込まれるが、(出所後に日本でも審理なら)マジで一生出てこれない。日本に帰国したくない」

と半分投げやりな発言をしています。