財務省国営企業政策委員会(パヤタイ区)がプラユット・チャンオチャ首相に提案していたタイ国際航空(TG=THA:チャトチャック区、SET上場)の法的整理移行について、プラユット首相は今日の閣議で了承する決定を行いました。これによりTHAIは中央破産裁判所(サトーン区)に整理手続き開始(日本の会社更生法に相当)を申し立てることになりました。事実上の経営破綻で、負債総額は2400億Bt.(約8000億円)以上に上ると推定されています。
THAIは1960年の創業以来、財務省の直接出資とオムシン銀行(GSB:パヤタイ区)など国営金融機関を通じた間接保有分を合わせて、政府が発行済み株式の大半を握るナショナルフラッグキャリアとして活動してきました。当初は国内線部門が旧タイ航空(TH=THA:ポンプラップ区)という別会社だったこともあり、日本の『45/47体制』にも似た棲み分けが行われてTHAIは中・長距離国際線を独占して担当し、70年代に彗星のごとく現れて消えたエアサイアム(VG)を吸収合併したほか、1988年には旧タイ航空も合併し、国内線・国際線の一元化を果たします。1997年、創業当初の合弁相手だったスカンジナビア航空(SK=SAS)の誘いを受け、スターアライアンスに結成メンバーとして参加しました。
ところが、タイ初の格安航空会社としてタイエアアジア(FD=AIQ)が国内線の運航を始めたことが大きな転機になります。タイ国際航空はタイエアアジアに対抗するため、ノックエア(DD=NOK)を設立し筆頭株主になりますが、ノックエアが路線を拡張するにあたって、THAIの国内ローカル線を移行するという45/47体制下の旧東亜国内航空(JD=TDA)や旧日本近距離航空(EL=ANK、現・ANAウイングス)も真っ青の政策を遂行したため、THAIはジェット機による国内幹線運航という旧日本航空インターナショナル(JL=JAL)と同じ立場になり、必然的にコストが採算に見合わない状態となってしまいます。
その後、収益の柱となった中距離国際線でもLCCの攻勢に押されます。日本線にはタイエアアジアX(XJ=TAX)が就航し、ノックエアもノックスクート(XW=NCT)を設立して対抗したものの運輸省民間航空局(CAAT)がICAOのSSCを受けてしまい就航が遅れる事態に。THAIはこれをビジネスチャンスととらえてFSC離れを食い止めるべきだったのが、SSC発行直前に増便認可を取り付けていたタイエアアジアXの手回しの良さの前に伸び悩みました。
欧州への長距離便では、乗り継ぎながらもEU圏内ほぼすべての都市へネットワークを持ったエミレーツ航空(EK=UAE)とターキッシュエアラインズ(TK=THY)に乗客を奪われ、直行のアドバンテージだけでは乗客を呼べなくなってしまいます。インドでもIndiGo(6E=IGO)やスパイスジェット(5G=SEJ)のLCC2強がバンコク線を設け、乗り継ぎ需要の多かった日本からの訪印者も日本航空やANA(NH)の直行便開設で次第に離れていくようになりました。
こうしてTHAIは慢性赤字体質に陥っていき、直近7期中最終黒字を達成したのは2016年12月期の1度だけ、株主への配当も7年連続で無しという厳しい財務状況になってしまいます。そして、3月からの新型コロナウイルス感染症(『COVID-19』)のパンデミックに伴う国家非常事態宣言でタイ発着国際線の運航が禁止されたためTHAIは国内線・国際線共に全便運休となり収入源を断たれます。THAIは財務省につなぎ融資を要請したものの労組や組合に近い役員の反対に遭い断念。2010年の日本航空が取った再建スキームを参考に、法的整理でスピード再建を目指すことにしました。
THAIはCOVID-19に伴うタイ発着国際線の運航停止が解除された後、速やかに運航を再開し、再建への道を歩むことになります。