2019年6月30日日曜日

英字紙『Nation』紙版終了!読売新聞タイ印刷版も廃刊

タイの新聞・雑誌業界の衰退が止まりません。バンコクで発行されている中堅以下クラスの新聞ではWebでの継続すらできずに休廃刊するものが続出しており、10年ほど前には3つあった日本大手紙の国際版も1紙だけになりました。そしてついに、2大英字紙の一角だった『Nation』が紙での発行をやめ、Webオンリーになってしまいました。

読売新聞グループ本社(東京都千代田区)は、2018年8月31日限りでバンコクだけでなく、香港やロンドンなどでも印刷されていた『読売新聞国際版』を世界一斉に廃刊としました。これは、2019年のWebサイト(『読売新聞オンライン』)全面リニューアルに合わせて、東京本社版の紙面イメージを世界中どこからでも閲覧できるようにする新サービス(『読売新聞海外サービス』)をスタートさせるための準備措置でした。

バンコク印刷の読売国際版は、1991年(平成3年)にスタート。読売新聞が英字紙『Nation』などを手掛ける大手新聞社のネーションマルチメディアグループ(バンナー区、SET上場)と提携し、バンコクからASEAN各国向けに出荷されていました。1部売りは日本版の1.5倍にあたる1部75Bt.(260円)という値段が付いていた他、戸別配達もできましたが1ヶ月2,000Bt.(7,000円)もしました。タイではタイ語紙や華字(中国語)紙が1部10Bt.程度で販売されている中、日本語紙は高嶺の花的な存在で、機内サービス用にタイ国際航空(TG=THA)や日本航空(JL=JAL)、ANA(NH)が大量購入していた以外は日系企業が付き合いとして購読するケースや、日本人の滞在の多いホテルへの納品が大半を占めました。個人の読者は、どうしても日本語の情報に触れたい日本人駐在員か、有り余る年金や貯蓄を持っていたロングステイの高齢者以外は全くと言っていいほどいませんでした。

一方で、2006年の9.19クーデター直前にそれまでシンガポールから輸入していた日本経済新聞の国際版がバンコクでの印刷を開始します。2010年の有料電子版スタートの時に、日本国内と違って国際版を定期購読している読者には無料で電子版のIDが発行されるようになり、日経は1ヶ月3,000Bt.と読売よりも高くなるものの、紙の国際版に加えて日本本国版(朝夕刊とも)の紙面データも見られるという大きな魅力が加わります。これに刺激を受けた朝日新聞社(東京都中央区)は、2011年の有料電子版(『朝日新聞デジタル』)立ち上げと前後して、東南アジア向けの国際衛星版を取りやめました。

朝日や日経と異なり、読売新聞は国内向けの電子版をあくまでも紙の新聞の補完と位置付けていて、電子版単独での有料購読は認めない方針を取りましたが、2019年2月のWebサイト全面リニューアルに際し、海外向けには国内版の紙面イメージを世界中どこからでも見られるようにして、紙の国際版を代替するという役割が与えられました。購読料金も紙の国際版が2,000Bt.(US$65)に対し、『海外サービス』ではUS$45(1,350Bt.)と値下げされました。この準備を進めるため、読売新聞グループ本社は紙の国際版を全世界一斉に撤退することにしたものです。

読売がタイでの印刷・販売を撤退しようとする中で、ネーショングループも衛星テレビなどの経営多角化に失敗、広告収入の落ち込みもあり慢性赤字に陥っていきます。ネーショングループは主力タイ語紙『コムチャットルック』の収入で英字紙『Nation』とタイ語経済専門紙『クルンテープトゥラキット』を支えてきましたが、それも限界が近づいていました。6月28日(金)付を最後に、Nationは1971年から続けてきた紙版の発行を終了し、電子版オンリーに移行。コムチャットルックとクルンテープトゥラキットは紙版を存続しますが、同社のフラッグシップだったNationの紙版終刊は、在タイ外国人の間で驚きをもって迎えられています。

これにより、タイで紙媒体の発行を続ける英字紙はバンコクポスト(ポストパブリッシング:クロントイ区、SET上場)だけとなります。