外務省は、例年4月1日付で在外公館が使用する現地通貨との交換レートを改定しています。これまで公定レートと実勢レートの乖離が激しいにもかかわらず公定レートに固執してきた在ヤンゴン日本大使館(ミャンマー)には改革の波が押し寄せており、この春の改定で実勢レートに移行する可能性も指摘されています。
ミャンマーの公定レートは1$=6チャット。これを円に直すと、1チャット=15円という数字が出てきます。しかし、タン・シュエ軍事独裁当局時代の鎖国政策や欧米の経済制裁でチャットの信用は低下しており、実勢レートは1$=800チャット前後。ということは、1000チャット=100円ということになります。
今年度(2011年度)までは、在ヤンゴン日本大使館は旅券やビザの申請で訪れた人に、公定レートで換算した金額を請求する方針です。ですが、昨年のテイン・セイン民主化政権発足以後、ヤンゴン国際空港や市内には実勢に限りなく近い市場レートで両替する外貨両替所が次々と誕生しており、東南アジア有数の低所得国だったミャンマーにも、グローバル化の波は着実に押し寄せています。そうなれば、在ヤンゴン日本大使館も公定レートに固執するのを修正し、4月から実勢レートで請求してきてもおかしくないという訳です。
たとえば10年旅券の新規発給であれば、16,000円を公定レート相当で換算すると、1,200kという数字が出ます。1,200kは、日本円に直すと120円です。しかし、昨年度までのミャンマーはこのレートに沿って運用してきました。外務省では、現地通貨の信認が低い国の公館には米ドルで費用を受け取ることも認めていて(カンボジアやラオスがその例)、これなら$200という数字が出るにもかかわらずです。
一方、実勢レートに沿って換算すると、160,000kという数字が出てきます。一気に150倍にまで跳ね上がる計算。在ヤンゴン大使館での旅券申請費用が安いと言われてきたバックパッカーにとっては、160,000kなんて数字は天文学的な数字。こんな金額の請求書を見たら、とても払う気にはなれないでしょう。
改定レートの発表まであと1ヶ月。どうしても気になるなら、今のうちにヤンゴンへの旅行を計画しないと間に合いません。
(3月8日追加)
ミャンマーでは4月1日に国会議員補欠選挙の実施が予定されています。この選挙には民主化運動の象徴と言われたアウンサン・スー・チーさんが立候補しており、彼女が当選するのを見届けてから通貨制度改革が実行されるのではないかと、フジサンケイビジネスアイが日本ブルームバーグからの転電で報じています。交換レートの改定が4月1日で、投票と同時であることから、通貨改革の実施が選挙後になれば大使館で使用するレートの変更は最大で1年間延期される可能性がありますが、そうなるとバックパッカーにとっては、最後のチャンスの年ということになります。
(4月7日追加)
ミャンマー国立中央銀行は、4月1日付で公定レートを廃止して実勢レートに沿った管理変動相場制に移行しました。1日が日曜日であることから変動相場制での最初の取引日は2日(月)となり、1US$=818k(1円=10k)という数字が出てきました。しかし、日本大使館では当分の間、従来の公定レートに近い数字で計算を続けます。これがいつ、変動相場制に基づく数値に変更されるかは未定とのことです。