2009年12月22日火曜日

3月、バーツランが難しくなる

今回、タイ国際航空(TG=THA)のチェンマイ~メーホンソン線がノックエア(DD=NOK)に移管される(前記事「TG3路線がノックエアに移管」参照)と、スターアライアンス系マイレージマニアの間で上級会員への最短コースといわれていた「バーツラン」が事実上、不可能になってしまいます。

バーツラン問題は、1997年のスターアライアンス結成と同時に表面化しました。スターアライアンスメンバー各社でマイレージプログラムの共用化を進めた結果、マイレージプラス(ユナイテッド航空/UA=UAL)やANAマイレージクラブといった一部のプログラムで、マイレージ上級会員昇格の条件とされていた暦年中の搭乗回数を少ない費用で稼ぐため、タイ国際航空のタイ国内短距離路線を短期間で数多く乗るという「修行」が行われるようになったのです。


現在でもそうですが、マイレージプラスの最上級資格「プレミアエグゼクティブ1K」は、スターアライアンスメンバー各社の定期便フライトに1年間で100回乗り、搭乗マイルをマイレージプラスに積算することによって獲得可能です。その下の「プレミアエグゼクティブ1P」は、当時は50回でOK。遅れてスターアライアンスに加盟したANAマイレージクラブの「AMCプラチナ」も、当初は年間50回のフライトで獲得OKだったのです。

一方、1997年当時、TGはチェンマイ~メーホンソンの他に、チェンマイ~チェンライ線も持っていました。チェンマイ~メーホンソンが1日3往復、チェンライへは1日2往復のフライトがあり、すべてが同一機材のATR72型機で運航されていたため、アジア通貨危機で相対的運賃が安くなった1998年以降、バーツランを目指す修行僧(マイレージマニア)が次々とタイ入りするようになります。

彼らはチェンマイを拠点に両路線を1日に何度も乗り、1日で限度いっぱいの10フライトを積み重ね、最短5日で1PやAMCプラチナを獲得するという修行を繰り広げました。中には年末に来タイして、1月1日から乗り始め、5日に1Pを確定させて翌々年2月までの2年間、マイレージプラスエリート会員の特典を享受しまくるという猛者もいました。

一方、AMCの規定が変わる前は、ANAカードスーパーフライヤーズクラブへの近道としても使われていて、バーツランで条件を満たして現在もカードを持ち続けていらっしゃる方も少なからずおられることでしょう。

そこでANAは、AMCプラチナの達成基準を改めます。搭乗50回または50,000プラチナポイントとしていたのを、搭乗50回かつ15,000マイル以上積算、または50,000プラチナポイントとし、さらに2007年4月からはその上のAMCダイヤモンドも含めて、搭乗回数だけでは達成できなくするというルール改定をしてきます。

しかしマイレージプラスは、1Pの達成に必要な回数基準を50回から60回に引き上げただけで、1Kについてはそのまま。60、ないし100フライトのうちどれだけのUA自社便搭乗が含まれているかとか、加算マイル数はとかいう基準は、UAがチャプター11に入っていた時代も含めて、結局現在まで一度も問われることはありませんでした。

この結果SFC狙いの日本人は姿を消しましたが、修行僧たちは1Kに狙いを変え、毎年かなりの数が来タイし続けていました。

TGのピヤサワット・アマラナン社長が記者会見で発表した3路線それぞれの赤字額のうち、チェンマイ~メーホンソン線は5,000万Bt.と、他の2路線に比べて3割以上も少なくなっていました。マイル修行僧が使う運賃が、路線単独の赤字幅を縮小するのにかなり貢献していたということになります。

ところが、修行僧が来過ぎると生活路線として必要とされる時に十分な座席を提供できなくなるというリスクがTGにはあります。それに加え、メーホンソン県へ向かう陸上交通の改善で乗客が減少、路線単独では大きな赤字を抱えるようになりました。2005年には一度、ノックエアへの移管が打ち出されたものの、地元国会議員や経済界の反対で「公共インフラとして」TG便が復活。そこから数年間は路線の赤字を吸収できるだけの利益がTGには出ていました。ノックエアも1日1~2往復の運航を続けますが、今回ばかりは頼みのTGが会社全体として赤字を出しており、ノックエアに全面移管して存続という選択肢を取らざるを得なくなりました。

もっとも、修行僧も修行僧で、TGの他の路線から、使えそうなルートを探し出して、しぶとく生き残っていきそうで怖い…