「外こもりのススメ」著者の安田誠(本名:棚橋貴秀)さんが行方不明になり、他殺体で発見された事件(前記事「安田誠氏殺される」参照)で、新たな動きが入ってきました。
前記事「安田氏殺害、日本法で処理か」で指摘した通り、事件は日本の捜査当局に委ねられました。その後、森宏年被告は逮捕され、岐阜地方裁判所(岐阜市)で1審公判に臨んでいます。一方、浦上剛志容疑者は逃走したまま。
2008年11月27日の初公判と、12月15日の第2回公判の席で、森被告は容疑を全面的に認めます。そこで、森被告が引き出した金額はトータル1,700万円に達することがわかりました。
Traveler's Supportasiaでは、早くから被害金額が1,000万円を超える可能性を指摘。強盗殺人罪の可能性もあると述べました。しかし、棚橋さんから奪ったBe1stカードを使って、ゆうちょ銀行のATMから下ろせたのは、20万Bt.相当(60万円強)にすぎませんでした。では、1,700万円もの金は、どこから下ろし得る口座に移されたのでしょうか。
棚橋さんは生前、日本株のインターネット取引に加え、外国為替証拠金取引(FX)にも取り組んでいました。資金は日本の証券会社に預かり金として、またFX専門会社に証拠金として預けられていました。
その預かり金や証拠金を引き出すには、インターネットにアクセスしてユーザーIDやパスワードを入力し、本人になりすまさないといけません。森被告と浦上容疑者は、殺害直前に棚橋さんから関連するIDやパスワードなどのログイン情報を聞き出し、殺害した後にログインしてポジション(株であれば保有銘柄、為替なら運用状態)を勝手に清算した後、資金を棚橋さん名義の日本の銀行口座に移動したのです。
また、棚橋さんがSNS最大手「mixi」に持っていたアカウントも事件翌日、自主退会したことになっています。これもログインに必要なメールアドレスとパスワードを本人から聞き出さなければ不可能。そして、mixiの自主退会機能はメインから相当深いページにあり、普通の人では見つけにくいです。
これらについて、山県警察署特別捜査本部から送検を受けた岐阜地方検察庁は当初、ATMに他人名義のBe1stカードをかけたという、窃盗罪で起訴します。ですが、インターネット経由で事前に資金を移動してから下ろした訳ですから、「不正アクセス禁止法違反」罪にも問われます。
不正アクセス禁止法(1999=平成11年法律第128号)では、他人のログイン情報を勝手に使ってログインすることを禁じており(3条の一)、違反した者には1年以下の懲役、または50万円以下の罰金を科すと規定しています(8条1項)。
ですが、不正アクセス禁止法違反はそれだけを問うたのでは微罪です。アクセスの結果起こったこととセットで処罰して初めて犯罪抑止効果が得られます。今回の場合、証券会社のサイトにアクセスした結果、棚橋さんが生前持っていたポジションは勝手に清算されています。その行為は窃盗罪の累犯に問えるのではないでしょうか?
岐阜県警では連休明けにも森被告を再逮捕し、追起訴して第3回公判に臨むとみられます。
(1月21日追加)
岐阜県警察からプレス発表があり、不正アクセス禁止法違反に加えて、刑法の「電子計算機使用詐欺」罪、さらに窃盗の累犯も適用して森被告は再逮捕されました。