東京急行電鉄(東京都渋谷区、東証1部上場)と東京メトロ(正式社名:東京地下鉄、東京都台東区)は、来年3月16日から行うことが決まった東横線と副都心線の直通運転を実施するに当たり、1964年(昭和39年)から50年近く続けてきた東横線と日比谷線の直通運転を全廃すると発表しました。2013年3月16日以降は、日比谷線の電車は東急線と接続する中目黒駅(東京都目黒区)で運転を打ち切ることになり、東横線内の一部の駅からは事実上、有料特急を使わないと成田空港まで乗り換え1回で行けなくなってしまいます。
東急東横線と東京メトロ日比谷線の相互乗り入れ運転は、前述の通り1964年の日比谷線全線開通時から行われてきましたが、2001年にそれまでの日中15分間隔から30分間隔に縮小されました。今回、副都心線に道を譲って乗り入れを打ち切ることになったのには、複数の理由があります。
《メトロ乗り入れが複数ルートになることによるリスク》
東急東横線から都心部の地下鉄への直通運転は、目黒線も含めた4線区間(田園調布~日吉)では目黒線を経由した東京メトロ南北線へのルートと、都営地下鉄三田線へのルートが既にあります。今回、田園調布から先の複線区間についても副都心線への直通運転が行われると、万が一の場合には電車の定時運行の面で大きなリスクが生じることが予想されていました。
即ち、東急東横線内で事故が起こり全線ストップすると、副都心線や、さらに先の東武東上線、西武池袋線までも巻き込む、まさに関東一円に及ぶ大混乱となってしまいます。もし日比谷線直通が残ったままだと、日比谷線の先、直通するもう1つの路線である東武伊勢崎線(スカイツリーライン)も巻き込まれ、現在工事中の相鉄=JR・東急直通線が開業すれば相模鉄道やJR総武快速線・湘南新宿ラインまで影響が及んでそれこそお話にならないレベルの事態になりかねません。これを回避するには、どこかで東急と日比谷線の直通を切るしかなかったといえます。
《東横線の線路容量の問題》
渋谷と横浜のちょうど中間にあたる、田園調布~日吉間にある4線区間は目黒線と東横線の線路が分けられており、東横線は全線複線分の線路しか使えません。そこに、副都心線直通の電車に加えて、渋谷止まりも1時間4本運転した上で日比谷線直通も残すとなると、ダイヤが極めて過密になってしまいます。
東急では、菊名止まりの各駅停車を今後も運転するとしていますが、いずれにしても渋谷・副都心線方面からの運転に切り替え、日比谷線直通電車が東急線内途中駅混雑のため後回しや打ち切りになるリスクを解消します。
《東急側が専用の電車を持たなければならず非効率》
東急東横線で使われている主力電車「5000系」は、1車両に片側4つの扉があります。これに対し、日比谷線は昭和30年代に作られた古い地下鉄ゆえに、1車両の長さが現在の東急の標準である20mよりも一回り短い18mで、片側に3つしか扉がありません。乗り入れを実施するには、日比谷線の規格に合わせた専用の電車を持つ必要があり、東急はバブル景気の頃に「1000系電車」を製造しました。
しかし、5000系電車とホームでの停車位置が異なり、同じ8両編成にもかかわらず編成あたりの乗客収容力が小さい1000系電車を今後も東横線で使うのは大変非効率と判断。製造から25年を経ようとしていて代替時期も迫っているため、代替せずに乗り入れから撤退することを東急は視野に入れていたということになるのです。