もうすぐ4月。日本では新年度を迎え、今年度採用の学生が入社する時期になります。と同時に、3月末限りで会社を辞める人が、現地採用を目指してタイに来始める季節でもあります。
日本でも厳しい就職戦線を勝ち抜かなければいけないのに、リーマンショック以降の不景気でアルバイトや派遣を切られてきた人も多く、タイに住んで現地採用を目指すということが、そう簡単に行くとは思えません。
カオサンのあるゲストハウスに住む、Traveler's Supportasiaの常連投稿者でもあるガダルカナル・関所さんは、もう3年以上もドミトリー暮らしを続けています。ノンイミグラントO-Aを持っているにもかかわらず(前記事「ロングステイビザに書き換えてみた」参照)、彼がドミトリー暮らしを選んだのには、強い理由がありました。
「ゲストハウスの個室にしろ、アパートにしろ、自分だけの環境を得たらいつかは引きこもりになってしまう。引きこもらせない、という緊張感が、ドミトリーに住み続ける理由なんだ」
一つの部屋に、2段ベッドがいくつも並ぶドミトリー。自分の占有できる面積は、1ベッドの周りの2~3平方メートルしかありません。カオサンで最も有名なドミトリー宿のママズゲストハウスや、ラオスのビエンチャンにあるサバイディーゲストハウスでは、毎日激しく宿泊客が入れ替わります。ガダルカナルさんは、毎日入れ替わる宿泊客と寝食を共にすることで、引きこもりになることを許さないという至上命題を自分自身に課し続けています。
「日本を降りる若者たち」(永遠名誉董事長・下川裕治著。現代新書)の8章には、バンコクでアパートを借りた後も、部屋から出るのは1週間や10日に1回の買い出しのときだけだという日本人外こもりすとの姿が描かれています。彼の楽しみは、部屋でのインターネットだけ。インターネットだけがあれば十分とかいう引きこもりには、日本やシンガポールの方が環境は充実していて、わざわざタイを選択肢にする必要はないと言ってもいいでしょう。
フジテレビで1月24日(日)に放送された「ザ・ノンフィクション ちゃんと生きたい!這い上がりたい男と女の物語」に登場したタカラさんは、日本での引きこもり生活を送ることにすらストレスを感じて鬱になるといい、タイ南部のビーチへ癒しを求めに来ます。
その一方で、ママズゲストハウスには、オーナー代行とか言っていながら実際はインターネットと酒しか楽しみがなく、外に出るのは地元のスーパーに酒を買いに行くか、ビザ更新の時だけという男性がいます。
ガダルカナルさんも、ドミトリーが一般化する以前の1970年代には今は無きジュライホテルにも泊まったことがある旅の大ベテランです。それでもドミトリーを選んだガダルカナルさんの生き方は、正しくそれらに対するアンチテーゼです。彼のいるゲストハウスを通過点にしていく旅行者たちとの日々の会話、そこから広がる交流の輪。それが、引きこもりを認めないというエネルギーになっています。