KDDI(東京都千代田区、東証1部上場)は、3月31日限りで終了させる予定だった国際オペレータ通話(0051)を、一転、恒久的に存続させる方向で動き出しました。2年近くかけて周知してきたプロジェクトを、予定日1ヶ月前という土壇場で方針変更するのは極めて異例で、監督官庁の総務省から強い要請があったとみられています。
日本で比較的最近まで国際オペレータ通話が主流となった背景には、1975(昭和50)年にKDDが国際ダイヤル通話をスタートさせた当時、電電公社の固定電話から国際ダイヤル通話を利用するにはKDDに利用登録をする必要があり、それをしていない大多数の家庭からは、国際オペレータ通話を利用しなければいけないという事情もありました。しかし、NTTグループ発足後数年して登録制度が廃止になり、すべての家庭の電話機から海外に向けて直接ダイヤルができるようになったことで、国際ダイヤル通話のほうが一気に常識になり、KDDIによりますと、現在では1日に300件ほどの取り扱いしかないそうです。
このため、KDDIでは2008年7月、国際オペレータ通話を2010年3月31日限りで廃止し、国際ダイヤル通話(社内呼称「001国際電話」)に統一すると一旦は発表しました。しかし、2009年9月の政権交代後に就任した総務大臣・原口一博(民主党、衆院佐賀1区)は、国際オペレータ通話の公共性の高さを極めて重視。2月16日(火)の衆議院予算委員会で質問に立った重野安正代議士(社会民主党幹事長、大分2区)に対して
「総務省としてしっかりと下支えできることを検討する」
と答弁。KDDIに廃止を撤回するよう強く要請するとともに、必要な支援策を検討するよう指示したとtwitterで公表しました。
この度、KDDIは原口大臣の要請を受け入れ、廃止を撤回する方向を固めたと、読売新聞が報じました。これについてKDDI広報部では、董事長ふくちゃんの電話取材に対し
「現時点(2月22日16時JST)で総務省とKDDIの間で相談があったのは事実だが、それ以上は何も決まっていない」
と述べました。
タイでは2008年5月、電報業務を廃止しています(前記事「タイから電報がなくなる」参照)が、これによってタイを発着する国際電報のやりとりもできなくなっています。KDDIも業務以外ではほとんど利用のなかった国際テレックス(加入電信)は廃止にしましたが、これと同様にもし、国際オペレータ通話が廃止になってしまったとすると、日本着のコレクトコールが簡単にはかけられなくなるという重大な欠点が予想されていました。
例えばクレジットカードの紛失や盗難、現地での入院による保険会社への連絡などであれば、企業側がダイヤル通話に対応できるコレクトコール専用の電話番号(社内呼称「オートコレクトコール」)を用意していますが、主要先進国からしかかけることができず、また携帯電話からの発信では使えません。スーパージャパンダイレクトも、事前にスーパーワールドカード(プリペイドカード)を購入していないと利用できません。クレジットカードがあればインターネット経由で世界中どこからでもスーパーワールドカードをオンライン購入できるものの、ネット屋もない小さな町ではどうしようもありません。
東南アジアの主要都市ならまだしも、携帯電話の料金チャージも満足にできない僻地、ましてやアフリカや中南米など遠隔地途上国からの日本着となると、やはりジャパンダイレクトでコレクトコールというのは、企業やNGO関係のみならず、バックパッカーにとっても、最後の頼みの綱として安心できる存在です。
また、2000年代前半にアダルトコンテンツへの不正課金が注目されて日本発の国際ダイヤル通話ができなくなっているインド洋の島嶼国セイシェルへは、001と同じ料金になるものの全てオペレータを通す必要があり、もし国際オペレータ通話が廃止になると、KDDI側で規制を解除しない限り日本からの発信が不可能になってしまいます。
さらに、原口大臣はtwitterで、
「北朝鮮の日本人妻の連絡にも大事な役割があります」
と述べています。祖国帰還(北送)事業で朝鮮半島出身の家族とともに北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へ渡った同胞たちが万が一脱北してくるとなると、日本に残してきたごきょうだいや親類に連絡しようにも、番号を忘れているとか、覚えていても国際ダイヤル通話のやり方を知らないという例もあるといいます。その時でも、相手国で公開されている(日本なら104で案内できる)番号ならKDDIのスタッフが調べてつなぐといいます(社内呼称「指名通話」)。原口大臣と総務省は、これが北朝鮮による拉致や脱北問題の完全解決に重要だと判断した模様です。
それだけでなく、インターネットで在留届を提出した在外同胞の安否確認にも使われます。インターネット在留届は外務省領事局政策課がすべての国の分を一括で管理しており、大規模な天災や戦乱が起こったとき、その国や地域にいる提出者の安否を確認するため、職員が登録された電話番号に指名通話扱いでかけるといい、廃止になればダイヤル通話でかけても出ない人が出て、安否の確認にこれまで以上の時間がかかることも予想されていました。
4月以降も、あなたと世界をつなぐ最後の頼みの綱は切れません。携帯電話が主流になっても、日本発の0051は不滅です。
(2月25日追加)
KDDIから正式に発表があり、
「4月1日以降も(サービス)提供を継続します」
とのことで、国際オペレータ通話の存続が確定しました。ただし、日本の発信者が料金を払わない「外国払い」のコレクトコールについては、9月30日で受付を終了するとも説明されました。