2009年5月11日月曜日

話にならない「あぶれ手当」は廃止すべき

東京・山谷などを拠点にする日雇労働者が仕事を得られなかった場合に、国から給付を受けられる「日雇労働求職者給付金」の制度が、派遣にまで拡大されて1年。しかし、まったく利用されていない、いわば「無用の長物」と化していることが指摘されました。5月10日付のサンケイエクスプレスが共同通信の配信記事を使って、伝えたものです。

日本に一時帰国したときに、日雇派遣で仕事をして海外へ戻ろうという外こもりすとにはちょっとした影響があります。自民党政治が最底辺の民衆を救えていない事実も明らかになったこの一件、徹底的に検討します。


あぶれ手当の制度自体は、以前からありました。職を得られなかった日雇労働者に、その日食べつなぐための生活費を雇用保険から支給する制度で、1日あたり最大7,500円の給付を受けられるのです。ところが、日雇派遣まで対象が拡大されたのは新しく、2007年9月。しかも、実際に給付を受けるのに必要な「日雇労働被保険者手帳」(俗に「白手帳」と言われているようです)を獲得するまでが、大変でした。

まず、指定されたハローワークに行かないといけません。土木作業などに従事する「昔ながらの日雇」であれば、仕事を求めて全国を転々とする事情があり、どこのハローワークでもいいのですが、日雇派遣の場合は厳しく、厚生労働省職業安定局の説明によると全国でわずか6箇所。

・新宿(東京都新宿区)
・船橋(千葉県船橋市)
・名古屋中(名古屋市)
・大津(滋賀県大津市)
・大阪東(大阪市)
・神戸(神戸市)

本来、日雇労働者を守るためにあるハローワークあいりん労働(大阪市西成区)や大阪港労働(大阪市港区)、東京では山谷に最も近いハローワーク上野(東京都台東区)が対象に含まれていません。厚労省は「混乱を避けるためだ」と説明したそうですが、日雇派遣を切られた人が、どうしても職や寝床を確保しようと山谷やあいりん地区を訪れる例もあるのを理解できていません。現に、ネット屋難民にもなれない日雇派遣の連中は「押し入れハウス」(バンコクでいえば、カオサンのドミトリーに相当)を探しに山谷へ来るというのです。

ハローワークあいりん労働のような場所は、「昔ながらの日雇」の権利を守るための拠点なのだと言えばそれまでですが、逆に言えば、制度は作るけど日雇派遣や外こもりの連中に簡単には渡さないよ、と言ってる様なもんです。

次に、派遣会社が制度を知らないか、適用事業所の申請をしていないという壁にぶち当たります。日雇派遣大手のフルキャスト(東京都品川区)からは受給者が出たものの、労組(派遣ユニオン)とマスコミ4社の圧力でようやく手帳発行に漕ぎ着けたといい、個人レベルでの手帳獲得は極めて難しいといえます。テイケイワークス(東京都新宿区)では、所属する支店に制度の話をしただけで

「会社のポリシーの3番目、『素』(素直)に反する」

としてその場で登録取り消し(正社員の懲戒解雇に相当)を言い渡された人すらいると、董事長ふくちゃんは聞いています。

その後、手帳を獲得できても、実際に手当金を受け取るまでには、極めて高いハードルがあります。

まず、手帳を受け取った後の2ヶ月間に26日(月の大体半分)以上、所属している会社の紹介で実際に仕事をし、白手帳に働いた日の分だけ雇用保険印紙を貼ってもらわないといけません。日雇健康保険と同じシステムなのですが、雇用保険印紙は個人で買えません会社側がハローワークに申請して「購入通帳」を出してもらい、そこで指定された郵便局に購入通帳原本を提示しないとダメです(雇用保険印紙及び健康保険印紙の売りさばきに関する省令8条:2003=平成15年総務省令70号)。この制度を会社が知っているか、昔ながらの日雇を雇っていた古くからの会社ならまだしも、多くが平成になってから創業した現代の派遣会社では知る訳などないでしょう。それ以前に、手帳を受けた後の2ヶ月間に26日も仕事を回してもらえるか、この景気の悪さだけに難しいです。

次に、手当を受け取ろうとする前の日に「派遣契約不成立証明書」を出してもらわないといけません。これは、日雇雇用保険の「不就労届」に相当するものです。証明書は当然、所属する派遣会社の営業時間中に出されなければなりません。フルキャストやテイケイワークスなどの大手であっても、19時までには閉まってしまいます。仕事を待ったからといって、夕方になって明日の仕事がないことが確定してから、所属する派遣会社の事務所に行っても応じてもらえない可能性があるのです。ましてや仕事が残業になり、終わったところに「明日はありません」では、行こうにも事務所まで当日中に行けません。

そして仕事がなかった当日の朝、指定されたハローワークに行くのですが、8時30分の始業と同時に入らないといけません。認定対応してもらえる時間は30分しかありません。しかも、会社が仕事を与えた(紹介した)のに本人が行けないと言った、即ち辞退した場合は、手当は受けられません。

日雇派遣や外こもりが個人資格で加入できる労働組合の「派遣ユニオン」(東京都新宿区)は、日雇派遣の最大手だったグッドウィル(東京都港区)の事業停止を受けてようやく動き始め、制度についての説明会をしたのですが、2008年1月から2月にかけて2度行われただけで、後が続きません。

日本語wikipediaにも

「日雇労働被保険者に対する求職者給付として、日雇労働求職者給付金がある」

とありますが、普通のネット屋難民はまず知る由もありません。

弊誌Traveler's SupportasiaでTOKYOチャレンジネットを取材した時(前記事「外こもりはTOKYOチャレンジネットに救われない」参照)返済が見込まれる特殊な形の生活保護」であると書いたのをご存知でしょうか。今回といい前回といい、厚労省の対応は、日本国内での労働をあきらめ、海外に挑んでいこうとする同志をあくまでも「ドロップアウト」的に扱い、見捨てる制度だと言わざるを得ません。逆に外こもりや現地採用組は海外に出て行く際のリスクを取り切れるからこそ出るのであって、今更日本政府に頼ることはないのです。そういう事実を理解しているのであれば、むしろ直ちにあぶれ手当の制度を廃止した方が、すっきりとするのではないでしょうか?